目次
- モール展開とパーソナライズ商品の相性
- 社内体制の変化とブランド理解の深化
- Qoo10を通じて得られた顧客インサイト
モール展開とパーソナライズ商品の相性
―現在、貴社で展開しているブランドについて教えてください。
「Sparty(スパーティー)」では、パーソナライズヘアケアブランド「MEDULLA(メデュラ)」を展開しています。メデュラは、お客さま一人ひとりの髪質や悩みに応じたカスタマイズ処方を行うシャンプーやトリートメントを中心としたブランドです。2018年のサービス開始以来、何万通りものSKUを保有し、それぞれに最適な商品を提供してきました。
―パーソナライズ商品をECモールで展開するにあたり、課題はありましたか?
もともと自社サイトを主軸にしていた背景には、診断を伴う販売モデルがモールと相性が良くなかった点があります。ECモール上では診断フローを設けることが難しく、販売方法が制限されてしまうためです。そこでモール用には、固定処方にアレンジした商品を用意し、パーソナライズ性は一部にとどめながらも、ブランドの世界観はそのままに展開しています。
―最近ではモールへの出店にも注力されていますね?
はい。これまではD2Cブランドとして、自社ECを通じた体験価値の提供に重点を置いてきました。お客さま一人ひとりに合わせたパーソナライズ体験や、ブランドの世界観を深く伝えられるという点で、自社ECは理想的なチャネルだったからです。しかし、より多くのお客さまと接点を持ち、ブランド認知を拡大するためには、新たな販売チャネルの開拓が必要だと感じていました。
そこで2024年からは、「Amazon」「楽天市場」「Qoo10」など、主要なECモールでの展開を本格化しました。それぞれのモールには異なるユーザー層や購買行動の傾向があるため、販売戦略もモールごとに最適化しています。
特に「Qoo10」は、販促イベントが豊富で、テキストや画像、動画を自由に使える商品ページの設計が可能です。また、InstagramやTikTokなどSNSとの連携もしやすく、若年層との接点を築きやすいことも魅力のひとつです。そのため、Qoo10ではブランド体験を広げる場として、他のモール以上にクリエイティブな施策を展開しやすいと感じています。
モール出店は単なる販路拡大ではなく、ブランドの価値を伝える手段のひとつと捉え、チャネルごとの特性を生かした展開を強く意識しています。
―Qoo10で実施している具体的な取り組みについて教えてください。
Qoo10では、販促イベントやユーザー行動の特性を活かしたマーケティング施策を積極的に展開しています。特に「メガ割」などの大型のセールイベントにあわせて、Qoo10限定のセット商品(QONLY)や、数量限定・先行販売アイテムを企画することで、お客さまの購買意欲を高めています。
たとえば、人気の香りを組み合わせたバリエーションセットや、トライアルサイズを付けた初回限定パッケージなど、通常ラインとは異なる“限定感”を重視したラインナップを展開しています。
また、レビューやUGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用にも注力しており、実際に商品を購入・使用されたお客さまの声をLP(Landing Page)や商品ページに反映することで、信頼性や共感性の高い訴求につなげています。
Qoo10ではレビューがとても集まりやすく、ユーザー自身が他のユーザーの購買行動に影響を与える傾向が強いため、こうした“リアルな体験談”の可視化は非常に重要です。
さらに、SNS連動型のクチコミ促進施策も実施しており、商品を手に取ったお客さまが自然とシェアしたくなるような設計を心がけています。こうした取り組みを通じて、購入前から使用後までの一連のブランド体験を強化し、顧客満足度の向上とリピート購入の促進を目指しています。
―モールのユーザー層について、どのように分析されていますか?
自社ECに比べ、モールは広範な顧客層にリーチできるのが大きな利点です。Qoo10ではZ世代を中心に、SNSとの親和性が高い若年層の利用が多いため、商品設計にはトレンド性やデザイン性を重視し、SNS映えするパッケージや投稿キャンペーンも活用しています。
社内体制の変化とブランド理解の深化
―モール展開にあたり、社内の意識に変化はありましたか?
大きく変化しました。以前は「モール展開=価格競争=ブランド毀損」と考える傾向がありましたが、現在では、チャネルごとにブランドの魅力を発信できる場と捉えるようになりました。Qoo10をはじめとするモールは、販売だけでなくコミュニケーションやマーケティングの場でもあると捉え、組織的にも柔軟に対応できる体制を構築しています。
―ECモールごとの施策の違いについて具体例はありますか?
たとえば「Amazon」では検索アルゴリズムを意識し、SEO設計に重点を置いた商品訴求やキーワード広告を設定しています。一方「Qoo10」はコンテンツ訴求型の設計が重要で、ビジュアルやテキストを豊富に使ったLPや商品ページが有効です。Instagramからの導線を設けたり、使用シーン紹介の動画を組み込んだりと、ユーザーの購入体験全体を設計しています。
―Qoo10用の商品は別途企画されていますか?
基本的には自社EC向けに開発した商品をベースにしていますが、各モールの販売ルールや顧客ニーズに応じて、処方やパッケージ、価格設定などを部分的に調整しています。とくにQoo10では、Z世代や美容感度の高い若年層の利用が多いため、商品を訴求する際には「見た目のデザイン」や「限定感」が重視されます。
そのため、Qoo10の「販促カレンダー」に合わせて、メガ割のタイミングでセット商品や先着プレゼント付きの企画を用意することもあります。たとえば、「Qoo10限定デザインのパウチ付きセット」や、「選べる香りの数量限定セット」といった、限定感や特別感のあるセット企画を展開することで購買意欲を引き出す工夫をしています。
このような販促施策では、商品在庫の調整やクリエイティブの制作も含めてスピーディな対応が求められますが、それこそがモールならではの魅力であり、ブランドがユーザーとリアルタイムでつながる機会でもあると考えています。販売チャネルであると同時に、ブランドのファンを増やす場として、モールごとの商品企画にしっかり取り組んでいます。
Qoo10を通じて得られた顧客インサイト
―Qoo10で得られた気づきや学びはありますか?
はい、ブランドにとってレビューやお問い合わせ機能から得られる定性的なフィードバックは非常に貴重です。どの成分が評価されているのか、どういった使用感が好まれているのか、あるいはパッケージや香りに関する意見まで、細かな情報がリアルタイムで得られます。
これを社内で分析し、商品改善や次の販促企画に反映しています。単なる販売チャネルにとどまらず、マーケティングリサーチの場としても非常に重要な役割を担っています。
―今後の展望についてお聞かせください。
今後はQoo10を中心に、ECモールでの販売とブランディングの両立をさらに進めていきたいと考えています。モール独自の販促イベントや「タイムセール」などの広告を使って訴求すると、自社ブランドの世界観を両立させながら、より多くのお客さまに価値を届けたいです。モール限定商品の開発や、他ブランドとのコラボ企画など、チャネルに合わせた取り組みにも挑戦していきます。
―最後に、他のショップへのアドバイスをお願いします。
「モールだから仕方ない」と考えるのではなく、モールだからこそできるブランド表現があるという発想が大切です。チャネルの特性を理解し、それに合わせたコンテンツ設計や商品設計を行うことで、価格競争ではなく価値訴求によってファンを増やすことができます。とくにQoo10は自由度の高いプラットフォームなので、PDCAを丁寧に回しながら、継続的に改善していくことが信頼や支持につながると思います。
おわりに(取材を終えて)
D2Cで培ってきた顧客理解やブランドの哲学を活かしながら、柔軟にチャネルを広げるSparty様の戦略は、今後のEC展開において重要なヒントを多く含んでいます。モールごとの特性を理解してブランドの価値を丁寧に届ける姿勢は、多くのショップにとって非常に参考になると感じました。